醜女村(しこめむら) (08/10/08)

今日は醜女村の話をしよう。

昔々ある村に、それはそれは美しい娘がおったそうな。どれくらい綺麗だったかって? さあねえ、何しろ村中の男衆はみんなその娘に惚れてたっていうし、山向こうの町からわざわざその娘を一目見るためにやってくる男もいたってくらいだから、よっぽどの美人だったんだろうよ。そんなわけだから、娘はとっても大事に育てられて、大きな病気もしなけりゃ、怪我もなく健やかに育ったそうな。

ところが娘が十六、七になったある年、村はひどい大凶作に見舞われた。米がまったく実らなかったんだ。秋になり、稲穂が重くなって垂れてこなきゃいけないのに、中身がすっかすかなもんだから、ぴんと立ったままちっとも垂れてこない。さて困った、このままじゃ村は飢え死にしてしまうというときに、村で一番年寄りの婆様が言ったのさ。「山の神の怒りじゃ。山の神が怒っているのじゃ」と。村人は山の神が怒りを静めてくれるよう、ありとあらゆることをやった。村の男達は、女達が作ったお供物を持って、毎日山の麓の祠にお祈りに行った。

そんなとき、村でこんな噂が広まった。山の神の怒りを静めるには村で一番きれいな娘を差し出せばいい。村人はもう藁にも縋りたい気持だったから、そんな噂を信じてしまった。一種の狂気だね。村の主だった男達が集まって、話し合って娘を一人差し出すことに決めた。そう、あの娘を。

もしかしたら娘のことを妬む誰かが、こんな噂を流したのかもしれない。いずれにしても、昔のことだからよくはわからないがね。程なくして、本当に稲穂は重くなって垂れはじめた。村の人々は、山の神が怒りを静めてくれたんだと大喜びだ。だが話はまだ終わらない。

豊作で村中が浮かれている間に、一人、また一人と村の娘がいなくなるようになった。しかも器量のよい子ばかりだ。村人が山の中に入って行くと、獣道に赤い鼻緒の下駄が落ちていたり、そんなこともしばしばあった。

村は再びパニックだ。今度は娘の祟りだと騒ぎだしたのさ。それでどうしたと思う? 村の男達は頭を寄せあって、またもやとんでもないことを考え出した。器量よしだと危ないんだろう、そんなら娘を醜くすればいい。家に帰った男達は、娘の顔に泥やら、炭を塗ったくりはじめた。でも、泥や炭じゃあ洗えば落ちてしまうってんで、娘の髪の毛をひっつかんで火をつけたり、娘の頬に刃物で傷をつける者までいた。村中気が狂っちまった。隣の娘の方が醜いとわかると、自分の娘を捕まえて、あちこちいたぶって傷つけるのさ。それが行き過ぎて、殺してしまうことさえあった。親が自分の子をだよ。酷い話だろう? それからというもの、その村は誰が付けたのか醜女村と呼ばれるようになったとさ。

それでその話はその後どうなったのかって? そんなの知らないよ。村中の娘が皆醜くなったんだから、もう連れ去られることもなくなったんだと思うよ。とにかく、その村の娘は今でも皆器量がひどく悪いんだそうだ。うちの嫁なんか、実は醜女村出身なんじゃないかと思っているんだがね。やっいけねえ、聞こえちゃったみたいだ。

(2006年執筆)

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