あててみよう (二)  (08/11/26)

いや、そんなんじゃない。これは、そんな男の足じゃない。

 ぬた、ぬと、にと、
にと、にた、ぬと。
音が近くなってきた。

国民服を着た少年が、乾いて白くなった泥のこびりついた足を引きずって歩いてくる。煤で汚れたその顔は、目が片方潰れていて、鼻は崩れ落ちて白い骨がちらちら見え隠れしていて、そいつが僕に「お父さん、ただ今帰りました」と言って、泣きながら抱きついてくる。
その腕は鉄棒に布をかぶせたような感触で、暖かいところ、柔らかいところがひとつもなく、昔、友達の髪の毛を面白がって燃やしたときの匂いと、ホームレスの臭いがする。少年が僕の足を抱きしめて頬ずりするので、耳の穴から這い出したウジ虫が、僕のズボンにはりついたまま次々と潰れていく。
逃がれようと後ずさりしても少年は全然力を弱めない。僕の足にしがみついて、土と乾いた泥と、煤と、ウジ虫と、腐った枯れ葉と、涙と体液と灰色に濁ったよだれで僕のズボンを濡らしながら、こう言うんだ。
「生き埋めにされ、長い間土の中に閉じ込められておりましたが、こうして無事に成長している姿を一刻も早くお父さんに見てもらいたくて、ただいま戻って参りました。お父さん、どうか名前をつけてください」

いやいや、ちがう。この足音は子どもじゃない。もっと重くて、ぶよぶよしてて、蝉が羽化する前のまだ柔らかくて乳白色のやつが巨大化したような、水っぽいのに、全身に産毛が生えていて、割れた口からは、醤油みたいな臭い液がたれていて、、、

ぬと、にと、にと、
にと、にと、にし。
足音が急に固くなってきた。

もうだめだ、これ以上耐えられない。急げ、全速力で走れば間に合うかもしれない。今だ、走り出せ。間一髪だ。

(つづく)

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