あててみよう (三)  (08/11/28)

よし、速いぞ、リュックが軽くてよかった。そうだ、いっそ、カバンを捨ててしまおう。後ろに投げれば、怪物がつまずいて時間をかせげるかもしれない。
もっと走れ、まだいけるはずだ。明日筋肉痛になっても構わないから、もっと腿を上げろ。顔も上げろ、ちゃんと前を見て走るんだ。目は閉じちゃいけない。
うわ、右に持っていかれる。なんか、体がものすごい勢いで右に持っていかれる。なんだ、風か、いやいやいや、これはなんだ、左だ、左から肘と脇腹に何かぶつかったんだ。すごい力だな、体がどんどん右に行く。足がついていかない。引き摺られっぱなしだ。ああ、たぶん折れた。
こりゃ、車だ。車にぶつかった。
やばいな、全然力が弱まらない。両足とも完全に腰より左だ。

頭の後ろが熱いな。めちゃくちゃ眩しい。目が渇いてるのかな。なんか、しばしばする。
あ、冷えてきた、暗くなってきた。痛いより前に眠いな。人間ってよくできてるな。死ぬときは痛くないのか。生き物って本当によくできてるな。もう、寒いくらいだわ。
まだ頭の中にちょっとだけ熱いのが残っているな。これが僕か。うん、これ僕だな。そうか、これが僕か、今の僕か。もうこれだけになっちゃったんだな。
あっという間だな。さっきまで色々考えたり、「走れ」とか言って足に指令を出したりしてたのに、今やもうこれだけだもんな。
さっきの話、どれが一番怖かったかな、、、大男か、子どものゾンビか、セミの幼虫の化け物か。大男だったら、今頃カマ掘られてるな。子どもだったら、どうだろう、とりあえず謝るな。水子なんて俺、身に覚えないけど。とにかく謝って、地べたに頭こすりつけて土下座して、亀みたいにうずくまって頭隠して、石みたいに固く縮まって、そのまま水の中に落ちていって、海の底まで沈んでいって、そこから今度は手足を広げて、ウミガメになって泳ぎだして。
ああ、もう寝そうだな。たぶん今、もうローソクの火くらいだな。このまま寝て、終わりだな。何もできないんだな。人って死ぬ前に何にもできないんだな。

(終)

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