あててみよう (一) (08/11/24)

僕が歩くと月も歩く。僕がとまると月もとまる。半分よりもちょっと欠けた月。三日月と言うには、すこし太っているな。うすい綿のような、まばらに広がった雲が、その月の光を遮ったり、遮らなかったり、調光器の役割をしている。
でも、それよりも気にかかるのは僕の後ろ。さっきからずっと音がしている。

 ぬた、ぬた、ぬた、
ぬた、ぬた、ぬた、

そう、これも月とおなじ、僕が歩くと音がする。僕がとまると音もやむ。誰かが裸足で僕の後ろを歩いているみたいだ。足は僕の、ちょうど車一台分くらい後ろを、僕が歩いてきた通りに、僕の歩き方を真似て、僕についてくる。

ぬた、ぬた、にた、
ぬた、ぬと、にと。
さっきより足音が力強くなってきたようだ。

一糸まとわぬ大男が背後から近づいてくる。額は岩棚のように平べったく、短髪で、頭頂部が薄くなっていて、首は切り株みたいに太く、肩はボーリングの球みたいで、そしてもちろん胸も腹もムキムキに割れていて、肉屋でよく見かける肉の部位を示したポスターみたいだ。股間には、僕の手首ほどはあろうかと思われる立派なものが、まっすぐ僕に狙いを定めている。カエルのような太もも。でも足の裏だけは柔らかいらしい、さっきから聞こえるのは、ほんのり湿った粘土を工作室の作業机に勢いよく押しつけたときのような音だ。
ビー玉のような目を、たった今水から掬い上げたばかりのように輝かせて、彼は僕を待っている。僕が足音に気づいて振り返るのを。僕が、ふと、小学生の時分に聞いたことのある懐かしい音が自分の数歩後ろでしているような気がして、何気ない顔で首を回し、肩越しに、僕の影をすっぽり飲み込むほどの大男が、両手で掬うような格好で僕に微笑むのを見て、ムンクの「叫び」みたいに静かに立ち尽くすのを、今か今かと待っている。
その巨木のような大男は、僕がまるで、、、

(つづく)

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